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「ブレイキンはオンリーワン同士のNo.1を決める戦い」 Shigekixが語るパリ五輪の新種目・ブレイキンの魅力と楽しみ方

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ラジオや音楽との親和性の高さから、サーフィンをはじめとするアーバンスポーツの普及に力を注ぐBAYFMは、2019年からブレイキン日本代表チームのオフィシャルパートナーとして、選手たちをサポートしている。20年には伝説のダンスチーム「BRONX」のメンバーであり、B-BOY(※)として日本における初期のシーンを支えたMC KENSAKUがDJを務める、「breakin’ style」(毎週水曜日24:00~)の放送を開始した。

パリ五輪まで残り3か月と迫る中、同番組にB-BOY Shigekixが4月の1か月間、ゲストとして登場。彼が22歳の誕生日を迎えた3月11日、練習拠点である神奈川県川崎市の「カワサキ文化会館」を尋ね、番組の収録を行った。

本稿では、Shigekixが語るブレイキンの魅力と楽しみ方に加え、知っておくとより深く楽しめるブレイキンの歴史と、ブレイキン4つの基本要素を紹介する。

※写真1枚目:パリ五輪の新競技・ブレイキン。日本代表に内定し、“最も金メダルに近い選手”と評されるB-BOY Shigekix(撮影:水上俊介)

※B-BOY:ブレイキンを躍る男性のダンサーのこと。ブレイカーともいう。女性はB-GIRL

Shigekixが語るブレイキンの可能性

2024年7月26日に開幕するパリ五輪。その新種目として正式採用され、今、大きな注目を集める「ブレイキン」(Breakin’)をご存知だろうか。DJの流す曲に合わせて即興で動きを合わせ、トリック(技)を繰り出しながら対戦相手と技術力や表現力を競い合うスポーツだ。

「(パリ五輪の正式種目に採用されたことは)素直に嬉しい。2018年にアルゼンチンのブエノスアイレスで行われたユース五輪に競技として採用されたことから、五輪の正式種目になる可能性を少しは感じていたけど、採用されるか否かは大きな違いで、僕は前者を求めていた。これでブレイキンの可能性が広がるし、さらに普及するきっかけに確実になると思う」  

そう語るのは、パリ五輪のブレイキン日本代表に内定しているB-BOY「Shigekix」(半井重幸)だ。16歳のときに挑んだ前述のユース五輪で銅メダルを獲得。20年には、ブレイキンにおける世界最高峰の戦いの舞台と称される「Red Bull BC One world final」で、史上最年少優勝(18歳)を果たした。これまで世界大会で通算47回もの優勝歴を誇る、日本を代表するB-BOYだ。

Shigekix(写真左)をゲストに迎え「breakin’ style」の収録に臨むMC KENSAKU(撮影:水上俊介)
Shigekix(写真左)をゲストに迎え「breakin’ style」の収録に臨むMC KENSAKU(撮影:水上俊介)

ブレイキンは、2021年の東京五輪から正式種目として採用されたスケートボード、BMX、スポーツクライミング、3×3バスケットボールと同様、アーバンスポーツにカテゴライズされる。なかでも、スケートボードで堀米雄斗、西矢椛、四十住さくらといったフレッシュな選手たちが躍動し、金メダルを獲得したことは、記憶に新しいのではないか。

「東京五輪を観ていたときは、これはもう他人事ではないと思った。(東京五輪では)ストリートカルチャーを内包したアーバンスポーツ特有の、ライバルであるはずの選手同士が互いを高め合いながら、競技後は仲間として認め合う姿が素晴らしいと称賛されたが、それはブレイキンでも同じこと。パリ五輪では、ブレイキンのそういった側面を見せられると思う」  

Shigekixは力強く語った。

ブレイキンはHip-Hopの4要素のひとつ

「Hip-Hop」の4要素のひとつであるグラフィティ。スプレーやフェルトペンを使って、建築物の外壁や電車の車両にゲリラ的に描く
「Hip-Hop」の4要素のひとつであるグラフィティ。スプレーやフェルトペンを使って、建築物の外壁や電車の車両にゲリラ的に描く

 ブレイキンはグラフィティ(Graffity)、DJ、MCからなる「Hip-Hop」の4要素のひとつ。日本ではブレイクダンスの名で知られているが、実はこれは和製英語。1984年に公開され、日本にブレイキンが広まるきっかけとなった映画『Breakin’』の邦題が『ブレイクダンス』であったことから、メディアを通じてその名が浸透した。

 冒頭でも触れたが、ブレイキンは対戦相手に即興で踊りを見せ合うことで競う「バトル」だ。1 on 1による個人戦からチームによる対抗戦といった伝統的なフォーマットから、アメリカン・ニューシネマの傑作の名を冠した、B-BOYとB-GIRLによる混合2 on 2「ボニー&クライド」といった変則的なものまで、大会によって形式は実にさまざま。こうしたバトルの文化には、Hip-Hop、そしてブレイキンの歴史が投影されていることは、この競技を楽しむ上で知っておきたいところだ。  

Hip-Hopは、1970年代初頭のニューヨーク・サウスブロンクス地区のストリートで産声を上げた。

ブロンクス
ブロンクス

この地区では、1950年代から60年代にかけて進んだ高速道路の建設事業で多くの住民が移住を強いられ、その南側に建設された低所得者用の高層公営住宅に、貧しいアフリカ系アメリカ人やヒスパニックが移住。やがて人種ごとに結成されたギャングの抗争が激化し、犯罪率が上昇。そこに不況が追い打ちをかける。行政からも見放され、スラムと化した一帯は放火が横行するなど、世界でも他に類を見ないほどの貧困地帯となったサウスブロンクスでは、たくさんの命が失われた。

 ただ、そんなギャングたちも家に帰ってはブレイキンやMC、DJに没頭していたと言われている。クール・ハーク、グランドマスター・フラッシュと並ぶ、Hip-Hop黎明期のカリスマDJ アフリカ・バンバータは、ギャングたちに「暴力や争いを止めて、『Hip-Hop』という新しい文化を通じて競い合い、高め合う」ことを提唱。こうして、対戦相手と向き合って踊る、ブレイキンのバトルフォーマットが生まれた。

 1973年、クール・ハークが公営住宅の娯楽室で主催した、移動式の巨大なスピーカーとアンプ、ターンテーブルを擁するパーティーが評判に。そして彼は野外に繰り出してブロック・パーティー(ストリートパーティー)を開催。街角や公園に仮設のステージを作り、貧困にあえぐ若者たちがDJの腕やブレイキンの技を競い合った。

そして、クール・ハークに刺激を受けた若者が別の地区でパーティーを始めた。DJがプレイする楽曲に合わせてブレイキンで競い合い、MCがラップを披露――。こうして、Hip-Hopの4要素が統合され、そのカルチャーがニューヨークを中心に広がりを見せた。  

1982年にはブレイキングループ「ロック・ステディ・クルー」が、マルコム・マクラーレンの「バッファロー・ギャルズ」のミュージックビデオや映画『フラッシュダンス』で披露したブレイキンが、世界を驚かせた。また、84年の映画『ビート・ストリート』では、ロック・ステディ・クルーに比肩する知名度を誇る「ニューヨーク・シティーブレイカーズ」とバトルを披露。ブレイキンは世界に広まっていった。

パリ五輪の対戦形式と、ブレイキン4つの基本要素

パリ五輪でのブレイキンは男女1種目が行われ、16名のB-BOYと16名のB-GIRLが、それぞれ1 on 1で対戦する。選手たちは、ブレイキンの基本要素ともされる①トップロック(TOP ROCK)②フットワーク(FOOT WORK)③パワームーブ(POWER MOVE)④フリーズ(FREEZE)を組み合わせながら、パフォーマンスを行う。身体能力はもちろん、表現力やセンス、創造力など、さまざまな能力が求められる。  

ここからは、ブレイキンの基本要素を紹介していこう。トップロックはフロア(床)へ入る前に立って踊ること。ほとんどのラウンドで、トップロックがムーブ(演技)への起点となる。基本的なものに「インディアンステップ」や「クロスステップ」が挙げられる。

トップロック

次にフットワーク。地面に手をついた状態で見せる、華麗で多彩な足さばきやステップのことだ。ステップのパターンの組み合わせや、変形を加えることで、オリジナリティを出す。

フットワーク

パワームーブは、ブレイキンを代表するアクロバティックな動きが特徴。頭を使って回る「ヘッドスピン」、背中や肩を使って回る「ウィンドミル」、体操のあん馬の技にもある「トーマスフレア」が有名だ。身体のさまざまな部分で連続回転する。

パワームーブ

トップロック、フットワーク、パワームーブなどの一連の流れから、音に合わせて身体や動きを数秒間静止させるムーブをフリーズという。バランス、パワー、柔軟性が必要で、静止させる際の身体の形や止まり方で個性を表す。椅子に座っているように見える「チェア・フリーズ」が有名で、低い位置や高い位置で止まるなど、さまざまな種類がある。

フリーズ

Shigekix流ブレイキンの楽しみ方

Shigekix(撮影:水上俊介)

「オンリーワン同士のNo.1を決める戦い」

 Shigekixは競技としてのブレイキンをこう評する。その理由を尋ねた。

「ブレイキンには個性豊かなB-BOY、B-GIRLが揃い、彼ら、彼女らにはそれぞれのスタイルがある。また、音楽とムーブをスムースに融合させることを重視したいのか、それとも自分のオリジナリティを重視したいのか、見せ方もさまざま。ブレイキンは、このスタイル同士をぶつけ合うことによって生じるダンスバトルだと思っている」

また、ブレイキンというと、アクロバティックなパワームーブに注目が集まりがちだが、「それを決めたから勝てるわけではない」という。

「派手なパワームーブは、あくまで見せ方のひとつに過ぎない。クリエイティビティに富んだ繊細で複雑な動きが、ときに派手な動きを上回ることがある。それは逆もしかり」

 最後に、Shigekixがおすすめするブレイキン観戦のポイントと、自身がバトルを通じて表現したいことを聞いた。

「このB-BOYのスタイルが好きだ、このB-GIRLの見せ方が好きだといったように、まずは自分のお気に入りを見つけてほしい。僕はバトルを通じて、『音楽を見せること』を意識している。動きと踊りそのもののレベルアップを図りながら、即興で流れる音楽と動きをどれだけ融合させられるか。パリ五輪では、これまででいちばんヤバいShigekixをお見せしたい」

Shigekix×MC KENSAKU対談の模様をBAYFM公式YouTubeチャンネルで配信中!

【参考文献】

ジェームス・M・バーダマン、里中哲彦『はじめてのアメリカ音楽史』ちくま新書

大和田俊之『アメリカ音楽史 ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』講談社選書メチエ ロバート・ヒルトン著 高尾菜つこ訳『[ヴィジュアル版]ダンスの歴史 宮廷ダンスからブレイキンまで』原書房



Text:Takahiro Shibayama
Photo:Shunsuke Mizukami



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