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鈴木おさむと映画評論家の松崎健夫が、アカデミー賞発表直後の受賞映画を徹底分析 火曜『シン・ラジオ』

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火曜日の「シンラジオ」は文系CLUBラジオ。3月14日(火)の放送では、週替りパートナーには映画評論家の松崎健夫さんを迎え、アカデミー賞の受賞作品を最速でご紹介しました。

 


鈴木おさむ(以下、鈴木) 昨日、アカデミー賞が発表されました。今回はかなり時代が変わった発表内容になっているんじゃないでしょうか?
松崎健夫(以下、松崎) そうですね~。あとの時代で映画研究者が発表するときに、アジアの人たちが活躍したといわれる記念すべき年になりましたね。
鈴木 『クレイジー・リッチ!』という映画がアメリカで1位になりましたけど、黒人に対してもそうですがアジア人に対しての差別もあって、アメリカでアジア人が主演をしたり、いいポジションをとって仕事をすることがいかに大変なのかを知っておくと、今回のアカデミー賞がいかにすごいことかわかりますよ。
松崎 今年のアカデミー賞を一言でいえば、アジア勢がたくさん受賞したことにつきますね。
鈴木 まず作品賞でいうと……
松崎 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(エブエブ)』ですね。
鈴木 で監督賞は?
松崎 『エブエブ』ですね。監督はダニエルズ(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート)で、この2人ですね。
鈴木 そしてポイントの主演女優賞、これも!
松崎 はい、『エブエブ』のミシェル・ヨーさんが獲りました。
鈴木 僕らくらいの年代からすると、ミシェル・ヨーといえば『ポリス・ストーリー』。正直言うと少し前のアクションスターが主演したことだけでもビックリしましたし、それで今60歳くらいですか? いきなりアカデミー主演女優賞とるなんて信じられないですよ。
松崎 『ポリス・ストーリー3』のときはミシェル・キングという名前でした。その後、アクションができる女優ということで注目されて、ボンドガールにもなったんですけど、どうしても演技賞みたいなものには縁がなくて。『ハムナプトラ』とかで活躍はしていたんですけどね。まさか本人もアカデミー賞の主演女優賞を獲るとは、その時は思わなかったでしょうね。
鈴木 発表された瞬間、こんなにアカデミー賞で胸が熱くなったのは人生初です。
松崎 普通、プレゼンターは主演女優賞は前年の受賞者がやるんですけど、今年は趣向が違いまして、昨年受賞のジェシカ・チャステインはいたんですがもう一人、ハル・ベリーもいたんです。
鈴木 はい。
松崎 なんでハル・ベリーがいたかというと、彼女は2001年、『チョコレート』という映画でアフリカ系アメリカ人として初めてアカデミー主演女優賞受賞の快挙を成し遂げたんですが、今度はさらに、それまで不遇だったアジア人の主演女優賞の人に賞を渡すということを、多分意図したんじゃないかと。もちろんアカデミー賞は封筒を開けるまで分からないんですけど。
鈴木 作品賞はさすがに松崎さんも『エブエブ』ではなく、『フェイブルマンズ』か大穴で『トップ・ガン』を予想してましたよね。
松崎 今回、ハリソン・フォードが作品賞のプレゼンターやったんですが、もしスピルバーグが『フェイブルマンズ』で渡したとしたら『インディ・ジョーンズ』つながりでよかったのですが……
鈴木 そうなんですけども!?
松崎 『エブエブ』がもし獲った場合は、同作で助演しているキー・ホイ・クァンという人は、『インディ・ジョーンズ魔宮の伝説』に出ていたので、それで渡すとなると形になるんじゃないかってことを考えていたんじゃないかなと。
鈴木 あのトロッコに乗った少年ですね(笑)! それで選ばれた瞬間に、もう50歳にもなったキー・ホイ・クァンとハリソン・フォードが抱き合ったとき、胸が熱くなりました。あの瞬間に『インディ・ジョーンズ』のテーマ曲が頭の中に流れましたもん。
松崎 (笑)
鈴木 やっぱりリアルなストーリーっていいですね。それで受賞の瞬間にスピルバーグの顔が映ったじゃないですか。自分が選ばれなかったのに、あの嬉しそうな顔。あれがまた泣けました。
松崎 今回ストーリーになるものがたくさんあって、キー・ホイ・クァンはベトナム難民としてアメリカにやってきて、本当に苦労されたんだと思うんです。その時に『インディ・ジョーンズ』のオーディションでスピルバーグに見初められてハリウッドにやってきたんですよ。
鈴木 そうだったんですね。俳優としてなかなか大成せずに裏方をやったりもして、そこからまさかの40年経ってスピルバーグの目の前で受賞!
松崎 だからスピーチで「まさにこれがアメリカンドリームなんです」と言ったのは、アメリカは移民の国で外からやってきた人がゼロから何かを初めて成功することを考えれば、難民としてアメリカにやってきて、エンタメの最高峰にのし上がったのいうのは僕らの考えている以上の感慨でしょうね。
鈴木 今回、『エブエブ』は7冠ですか。
松崎 はい、作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、編集賞ですね。
鈴木 『エブエブ』僕も見ました。その感想を含めて、今日はアカデミー賞三昧です。

7冠の『エブエブ』はどんな映画?

 

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鈴木 『エブエブ』ですけど、簡単に言えばコインランドリーを経営しているミシェル・ヨーとキー・ホイ・クァンの夫婦がいるんですね。お父さんの介護をしていて、娘はバイセクシャルという家庭。ちょっと冷めた感じの家庭環境のところ、あるとき税務署に確定申告で呼ばれるんですよね。そこで突然、マルチバースというんですか? 世界は色んな所につながっているというような話で。突然、それら世界とつながって、あるミッションをクリアしなければいけないという状況に。
松崎 そうですね。
鈴木 それで結論はめっちゃ面白いんですけど、まず感想を言えば難しいと思いました。結構頭使うんですよ。前半本気で設定見てないと「何が起きてるんだろう?」となっちゃいますね。あらすじをしっかり読み込んでいてもいいかもしれないです。映画偏差値高いと思いました。
松崎 それはそうですね。
鈴木 だからあらすじを見といた方が、楽しむ時間までが早くなるかもしれない。それでこの映画、映像的にもメチャクチャすごいですね。
松崎 そうなんです。カットが早い部分と、カットの長めにしている部分の塩梅がすごいんです。マルチバースで別の並行世界に移行しますっていうときは、予算低めなのでCGバリバリだったり、実際に作り込むようなことではなく、Aの世界とBの世界を移動するときに、ミシェル・ヨーのメイクや服装が違うだけで移動したってわかるように編集でつないだだけなんですよ。
鈴木 うんうん。
松崎 一方でカットが長いものはなにかというと、アクションシーンなんです。ジャッキー・チェンが酔拳やっている頃って、全体像を見せて長めにアクションをする方法があるんですけど、あれをやっているんですね。そういう見せ方の妙がすごくうまくて。ミシェル・ヨーがアクション出来るのはみんな分かっているから、カットで割って見せるよりも、長く撮って彼女の身体能力を見せようとしたんですね。
鈴木 いろんな次元にいろんなミシェル・ヨーがいて、歌手だったり、料理人だったり、なかにはカンフーの達人もいるんですよ。それで色んな異次元の自分とつながるとことで、その能力がダウンロードされていくんですよね。その設定が面白い。それで敵が襲ってきて、ある時カンフーの達人をダウンロードするんです。その瞬間のミシェル・ヨーのファーストカットの構えをみて、立って拍手したくなりました。
松崎 そうですね(笑)。見てる方はミシェル・ヨーはアクション出来るってわかっているんだけど、設定では普通の人だから……
鈴木 そう。それでカンフーをダウンロードした時の「キターーーーーー!」って感じが(笑)。その後も戦っていく話なのかなと思ったら、終盤は全然違う話に展開する。そこが市場ンビックリしました。
松崎 表層的にはSFとしていいのかなとも思うんだけど、この映画の神髄はもうちょっと別のところにあって、家族の物語なんですよね。
鈴木 家族も長くなっていくと、つい見過ごすことが増えていくんですよね。メチャクチャ仲が悪いわけではないんだけど、それが問題だったりして。
松崎 見た人は、メタバースでもしかしたら別の自分になれたんじゃないかと思い至るんですよね。そのことが、今の夫婦や家族に齟齬があったんじゃないかと気付くきっかけになってる。「もしあの時ああしてたら」と考え直して、今の生活を見直す映画になっています。
鈴木 実は家族の普遍的な物語になっていくんですよね。「すごい料理かと思ったら実は家庭料理」みたいな。


やはり今年はなんといっても『エブエブ』でしたね。お2人の話も7冠受賞のすごさでもちきりで、映画通のリスナーからも沢山のメッセージが来ています。さらに同作がいかに今後のアカデミー賞に影響するかなど、話題は膨らんでいきました!


アカデミー賞はどうやったら獲れるのか

 

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鈴木 リスナーからも続々メッセージが来ています。今年は盛り上がったという意見が多いです。
松崎 ヒットした映画がたくさんあったし、日本でも10本のうち7本が観れる状況もいいですね。
鈴木 『フェイブルマンズ』が1部門も獲れなかったですね。
松崎 いつも言っているのですが、アカデミー賞ってその年に一番優れた作品が獲るわけではないんです。例えば今年ならアジアの人にチャンスをあげて、今後の映画製作を変えていこうという意図が働いたんですよ。そういう決め方なのかと思うかもしれないですが、アカデミー賞は映画ファンが投票するのではなく、ハリウッドで働く監督、俳優、プロデューサーが決めています。
鈴木 はい。
松崎 昔、『それでも夜は明ける』という黒人奴隷の映画があって、それが作品賞を獲ったんです。その後、黒人の俳優たちにも門戸が広かれて受賞が多くなった経緯があります。 その年、最有力作品は『ゼロ・グラビティ』だったんですけど受賞は違った。だけど、どっちが今もよく見られてますかというと、確実に『ゼロ・グラビティ』なんですよね。でもその時の機運は人種差別がアメリカに合って、そこに投票する人が多かったんです。
鈴木 なるほど。
松崎 『ラ・ラ・ランド』のときも『ムーンライト』が受賞しましたが、どっちが今も見られてるかと言えば『ラ・ラ・ランド』じゃないですか。でもその時は『ムーンライト』がLGBTQや麻薬、格差社会などの、アメリカの抱えていた問題に触れていることで受賞しているんです。今年はそれがアジアであり、それで興行的に収支が付いたということで、その方に重きを置いたということなんです。
鈴木 必ずしもヒット性だけではなくて、賞を機に当たらなかったところに光を当てて、時代に即して何に獲らせるかということが大事なんですね。
松崎 それが今年の結果につながっている気がします。今年のスピーチでは多くの人が「映画館で見てくださってありがとう」と言っていました。『トップ・ガン』は映画館に人を戻した映画ということで評価されていましたし、『エブエブ』は難しかったけど1億ドルの興行収入があるということで、これからは作家性の高いものでも作っていけるという、希望につながったのではないかと思います。そこにハリウッド映画人は投票したんでしょうね。
鈴木 う~ん面白い!


ここで「名画の見方」のコーナーです。今回はホイットニー・ヒューストンに注目して、あの名作について鈴木さんと松崎さんがかく語ります。


アカデミー賞はどうやったら獲れるのか

 

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鈴木 さて今日の「名画の見方」は『ボディー・ガード』なんですが、昨年公開した『ホイットニー・ヒューストン』の映画にも触れていきたいと思います。
松崎 脚本家のアンソニー・マクカーテンは、大ヒットした『ボヘミアン・ラプソディ』の脚本も手掛けてますね。
鈴木 映画としては思うところはたくさんあるんだけど、知らない事実がたくさん知れて、見た後にホイットニー・ヒューストンを聴きまくりたくなるし、とにかく悲しい。
松崎 本当にそうです。
鈴木 なんでスターはマイケル・ジャクソン然り、悲しく亡くなっていくんでしょう。
松崎 有名になるのはどういうことなのかとか、考えちゃいますよね。
鈴木 映画を見ると学生の頃から付き合っている女性がいて、バイセクシャルであったという。この女性がずっと大事な存在だったんですよね? 両親は仲が悪く、デビューのきっかけの話などがありました。瞬く間にスターになったけど「曲が黒人の歌じゃない」と言われたり。
松崎 「ホワイトニー・ヒューストン」と、ものすごい罵声を浴びせられて。
鈴木 ラジオに出たらものすごい辛辣なことを言われたり。で、そんなときに出会ったのがボビー・ブラウン。そのボビーの、映画全体を通しての「愛すべきくず野郎」ぶりがすごいですね。
松崎 薬の問題や暴力などダメ亭主で、「なんでこの2人別れないんだろう?」と思っていたけど、なぜかお互い擁護していて、夫婦にしかわからないことがあるんだろうと。
鈴木 歌声はホイットニー本人のものですね。1994年のアメリカンミュージックアワードで3曲歌うんですけど、これを歌うシーンが完コピですごかったです。
松崎 フル尺で10分8秒あるんですけど、映画の中で丸々再現してます。脚本家が同じだからクライマックスシーンをつくりあげてますね。
鈴木 でもどんどん落ちていく悲しみがあって、お父さんが金の権化なんですよね。金のために世界ツアーやらせたり……確かにホイットニーの声は初期と後期では全く違う。音域出てないんですよね。映画としては評価が薄かったんだけど、ストーリーとしては見ごたえありました。
松崎 僕も知らないことが多くあって、映画の中でリアルを感じました。パトリシア・ヒューストンというホイットニーの義理の妹がプロデューサーで入っているので、当事者が制作に入っているからこそ、見せたいものを演出できていましたね。

ケビン・コスナーと『ボディー・ガード』

 

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鈴木 そして名画は『ボディー・ガード』。92年公開で、ホイットニーがブレイクしたころで先ほどの映画でもありましたが「映画やりたい」ということだったんですが、脚本をみて「やんない!」と。で、相手がケビン・コスナーと知るなり「やるわ」っていうシーンがあって。
松崎 (笑)
鈴木 改めて映画を見ると、ケビン・コスナーがメチャクチャかっこいい。
松崎 人気絶頂で、ケビン・コスナーが『ダンス・ウィズ・ウルブズ』でアカデミー賞をとったころですからね。また90年代では黒人と白人の恋愛もまだ描きにくい時代で、人種差別に声を上げた作品でした。タブーに挑戦しており、ただのエンタメ映画ではないんです。
鈴木 それで前にも番組で話しましたが、僕が思うに、売れた俳優で本当にその時見たいものが詰まっている作品ってなかなかないんです。
松崎 そうですね…(笑)
鈴木 例えばブラッド・ピットが売れてからの作品はいっぱいあるんですが「そのときの一番見たいものを見せてくれよ」と思ってしまうんです。そういう意味では、ケビン・コスナーって売れて一番影響力があるときに、一番かっこいいものをいせてくれたんです。
松崎 それも運もありますからね。またブラッド・ピットって少し斜に構えていて、本当にみんなが求めているカッコいいものってないんですよね。
鈴木 そんな面でも見せてくれた、改めてすごい映画です。

この後は再びアカデミー賞の話題に戻ります。
『エブエブ』以外にも、アジア作品『RRR』がインド映画史上初の歌曲賞を受賞した話や、『西部戦線異状なし』などの他のノミネート作品について、お2人ならではの深い所見が伺えました。
さらに日本アカデミー賞を総なめした『ある男』まで話題は尽きません。
続きはradikoでチェック!

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鈴木おさむ

1972年生まれ。千葉県千倉町(現・南房総市)出身。高校時代に放送作家を志し、19歳で放送作家デビュー。人気番組の構成を担当。映画、ドラマの脚本や舞台の作演出、小説の執筆など、さまざまなジャンルで活躍している。

Illustration:TONDABAYASHI RAN

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